DANCER'S COLUM

2026-06-05

「白いバレエ」への憧れと歴史

クラシックバレエの歴史を語る上で欠かせない言葉のひとつに、「白いバレエ(Ballet Blanc)」があります。

白いバレエとは、白いチュチュをまとった女性たちが群舞を踊る幻想的な作品群を指し、19世紀ロマンティック・バレエの時代に生まれました。その名の由来は、舞台上を埋め尽くす純白の衣裳から来ています。

代表的な演目には、ラ・シルフィード、ジゼル、そして後の時代に誕生した白鳥の湖第2幕の「白鳥たちの場面」などが挙げられます。

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なぜこの時代に“白”が求められたのでしょうか。

19世紀のヨーロッパは、産業革命によって社会が大きく変化した時代でした。都市化が進み、人々の生活は便利になる一方で、現実社会には貧困や格差、急速な変化への不安も広がっていました。

そんな中、人々は舞台芸術に「現実には存在しない美しさ」を求めるようになります。

妖精、精霊、亡霊、白鳥——。

白いバレエの主人公たちは、人間でありながら人間ではない存在として描かれました。彼女たちは触れられそうで触れられず、愛されながらも手の届かない存在です。

また、この時代はキリスト教的な価値観の影響も色濃く残っていました。白は純潔や神聖さの象徴であり、舞台上の女性たちは現実世界の女性というよりも、理想化された精神的存在として表現されていったのです。

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ガス灯による舞台照明や、つま先で立つポワント技術の発展も、こうした幻想性をさらに高めました。闇の中で浮かび上がる白い群舞は、まるでこの世ならざる存在が舞台に降り立ったかのような光景だったといわれています。

現代の私たちが白いバレエに魅了される理由も、きっとそこにあります。

ただ美しいだけではなく、人が現実を超えた世界に憧れた時代の夢や祈りが、その白の中に宿っているからです。

舞台に並ぶ白いチュチュの一人ひとりの向こうには、約200年前の人々が求めた「理想の世界」が静かに息づいているのです。